あらすじ
三十二歳の私は、三十年の居住権と引き換えに家契約を預かる契約番だ。婚姻すれば配偶者まで屋敷に縛られるため、二人の求婚者を退けてきた。もっとも一人は三通の原本照合に椅子ごと後ずさりし、もう一人は相続の代価を聞いて計算筆を折ったのだけれど。
三人目は七歳年下の製本師レイフ。相続財産の半分を失うと説明しても、彼は作業着に着替え、二夜後に迫る契約更新までに三代の祖霊から承諾を得ると言い出した。私は住居権を、彼は財産を放棄する。それでも私の返事は報酬にしないらしい。
三通の書簡、二十七針、切らずに残した八寸の麻糸。紙への悪口だけは許さない年下男と、他人を守るため勝手に拒絶してきた私が、互いの選択欄を取り戻すお話。