あらすじ
「あと十日で、村の食料が尽きます」
現代日本で派遣システムエンジニアとして働いていた、三十二歳の遠野修司。理由も分からないまま異世界へ来た彼が派遣されたのは、生活用魔道具を扱う小さな会社「灯り木魔道具社」だった。
最初の仕事は、食料不足に悩む麦穂村。しかし、到着した修司が見た穀倉は、どう見ても満杯だった。
特別な魔力も、天才的な発明の才能もない修司は、村人と一緒に現場を歩き、話を聞き、紙へ書き出していく。すると、家ごとに違う「一袋」の大きさ、記録されていない備蓄、古い食料が残り続ける棚の使い方が見えてきた。
修司が得意なのは、難しい魔法ではない。
散らかった仕事を順番に並べ、誰が、いつ、何を確認するのかを、紙札や木札で分かりやすくすることだった。
ただし、彼には一つ大きな弱点がある。
困っている人を見ると断れず、部品代、道具、宿代、休日まで、「まあ、これくらいなら」と自分で差し出してしまうのだ。
そんな修司へ、魔道具師のリゼは問い続ける。
「その親切は仕事なの? それとも、君が勝手に払っているだけ?」
村、工房、薬房、宿場町、運送組合、学校、領地、国境――。
困りごとを一つ整えるたび、修司は少し損をする。その代わりに、食事を届けてくれる友人、仕事を任せられる弟子、一緒に休日を過ごす恋人、そして帰る場所が少しずつ増えていく。
やがて、断ることも、正当な報酬を求めることも覚えた修司は、それでもなお、自分の意思で「損をする道」を選ぶことになる。
善良さと、都合よく使われることの境界はどこにあるのか。
普通の派遣SEが、人の話を聞き、魔法の仕事を地道に整えながら、自分の暮らしと大切な人を守る方法を覚えていく、温かな異世界お仕事スローライフ。