あらすじ

私、内藤香子(ないとう きょうこ)の記憶は永続しないし、過去の記憶も現在進行中の記憶さえも断片的に明滅する。この症状は中学生時代に現れたと思う。その原因が先天的なものか、後天的なものか専門的知識のない私自身には判断がつかない。  気付けば、私は長時間砂浜にしゃがみ込んでいた。自分の記憶からすると失恋したそのショックで、鎌倉の砂の上で憂さを晴らしていた。突然の雨が私と彼を会わせてくれた。初対面なのにどこか親しみのある彼。濡れた私は彼と彼の母親は家に招き入れられ、優しく接してくれた。私好みの衣装が通された部屋にあった。  私はこの春に大学進学のために上京してきた山陰の娘。私の従姉妹の麻未と麻耶が東京に住んでいた。麻耶とわたしは同学年で、誕生日もほぼほぼ近い。この春から同じ女子大に通うことになった。日常的な彼女との約束も忘れている私。麻耶は結局、私のアパートが大学に近いという理由で、強引に引っ越してきた彼女との同居生活がスタート。実は私たちは昔から双子ではないかと言われていた。加えて、私は麻耶の姉的位置づけだが、少々消極的。麻耶は小学生のときから私を愛していた。大学入学早々、麻耶と一緒な付属校の女子たちとも親しくなった。彼女たちもレスビアン?!  私は父を早くに亡くした。父には弟がいた。私にとっての叔父様だ。父と母はともに高校教師をしていた。一方、叔父のヒデ君は元々画家志望だったが、祖父の地元での政治的地盤を継ぐために秘書生活を始めた。そのおかげで私たち母子は父を亡くした後は彼の庇護の下にあった。程なくしてヒデ君は母と恋仲になったようだ。私にもその関係性は察せられた。その一方で、ヒデ君は私の成長を鳥取県の大山にあるアトリエで描いていた。彼の提供してくれる飲み物を飲むたびに記憶が失われていった。途中からは自分でもその飲み物の存在に気づいてはいたが……。私は父に代わる存在としての叔父を慕っていたし愛情さえ芽生えていたので、彼が私に対して行うあらゆる事ことに疑念を抱かなかった。母に僅かな嫉妬心を抱きながら。  鎌倉の三枝家とは私の家の親戚だったが、あまり懇意にしていなかったので、当初は存在さえ知らなかった。麻耶と三枝薫は従兄妹同士。私が薫に会ったのは医学部生の合コンだった。麻耶と彼の関係は恋人然としていた。彼らは私の記憶障害について知っており、さらに薫は現役の精神科医だった。彼らは私の症状とヒデ君との関係を知っていた。また、薫は私が小さい頃、島根医科大の医学生だったが、彼の父親の死後は地元のヒデ君が彼の後見人的存在として金銭面も支援していたらしい。薫はヒデ君に逆らえない存在。私の症状は芳しくない状態のまま大学生活は過ぎていった。私は薫と結婚していた?  私は時折、ヒデ君のことを思い出す。周囲の人たちはヒデ君について語ろうとしない。断片的であるが、ヒデ君のアトリエを訪れた大雪の大山の光景を思い出す。私の記憶は炎で燃え盛る別荘の情景と雪中にすっぽりと嵌った麻耶と自分の姿。そして、その雪穴の中に誰かの腕が伸びてきた。私はヒデ君の死を忘れてしまっていた。

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カクヨム
カクヨム2026/08/26
  • 現在の作品白い記憶の欠片ー喪失と実態の間でー