あらすじ
『ただいま安全確認のため、列車が急停車しております。お客様にはご不便をおかけしておりますが、確認が終わるまでそのままお待ちください』
おれは小さく息を吐いた。ほぼ同時に、車内のあちこちから落胆混じりのため息が漏れ、舌打ちまで重なった。
夜の電車内は相変わらず満員だった。汗や整髪料、香水の匂いが入り混じる空気の中、乗客たちは電車の揺れに合わせてひしめいていた。
毎日これだけ混み合うとわかっていながら、どうして運営会社は何の対策も打たないのか。増便するとか車両を増やすとか、やりようはいくらでもあるだろう。運賃だけはしっかり値上げしやがって。客を舐めているのか――おれは人に挟まれながら、そんなことをぼんやり考えていた。
そのときだった。電車が突然大きく揺れ、おれは思わずひゅっと息を漏らした。咄嗟に吊革に引っ掛けていた指先に力を込め、両足で踏ん張った。だが、その必要はなかったかもしれない。前後左右を人でびっしりと囲まれており、倒れるどころか身動き一つ取れないほどだった。
ああ、まったく最悪の混雑具合だ。その上、急停止だと。どこかの馬鹿が線路に飛び込んだのか。クソが。地獄へ落ちろ。
……いや、それだと復旧まで時間がかかるぞ。冗談じゃない。ただでさえ息が詰まりそうなんだ。頼むから、ただの誤作動か何かであってくれ……。
――クソが。
――ほんと最悪。
――なんなんだよ。
……え?