あらすじ
「針仕事しかできない君は、妻として役に立たない」――そう告げられ、婚約を解消された令嬢ハフソ。彼女はずっと、役に立てなければ愛されないのだと思って生きてきた。
ところが翌朝、王都の広場に置かれた大きな赤い箱から、母方の一族の紋章が刻まれた銀の針と、破れた地図、そして「昨晩を探してくれ」と縫われた布が見つかる。
同じ頃、辺境伯クアイドエンは昨晩の三時間だけ記憶と時間を失っていた。
布や糸、紙、木、革に残された感情や記憶を“糸”として読むハフソの力。消えた道、十七秒だけ失われる馬車、十二年前に封じられた三百人の時間――調査を進めるにつれ、現在起きている「途切れた時間」と、王国が隠してきた過去がつながっていく。
国を守るため、誰かを犠牲にするのか。すべての国民から平等に時間を奪うのか。それとも、誰も切り捨てない第三の方法を探すのか。
一人で背負おうとするハフソへ、クアイドエンは「助けてもらう覚悟も持ってくれ」と告げる。
必要とされることと、愛されることは違う。
仲間と力を合わせ、切られた時間を“切る”のではなく“縫い直す”旅の中で、ハフソはやがて、愛される資格を証明するのではなく、自分自身で誰と生きるかを選ぶことを知っていく。