あらすじ
『雨が君の名を呼ぶとき』
大阪・谷町。
雨の日になると、誰もいない路地に一人の少年が立っている。
傘も差さず、ずぶ濡れのまま、ただ誰かを待ち続ける少年。
霊感を持つ高校二年生・雨宮美月だけが、その姿を見ることができた。
「……帰れないんだ」
少年がそう呟いたことから、美月の日常は少しずつ変わり始める。
親友の彩花、そして霊を祓うのではなく「帰る場所を失った魂を救う」ことを信条とする陰陽師・橘蒼真。
三人は少年を成仏させるため、彼の過去を調べ始める。
しかし、少年は自分の名前すら覚えていなかった。
なぜ死んだのか。
誰を待っているのか。
なぜ雨の日だけ現れるのか。
調査を進めるほど、少年の記憶には、激しい雨と一人の母親の姿が浮かび上がってくる。
やがて三人は知る。
少年をこの世につなぎ止めているのは、呪いでも怨念でもない。
「自分だけが、母親を救えなかった」
そう信じ続けている、少年自身の後悔だった。
少年を救おうとする美月もまた、「誰かを救わなければならない」という苦しみを抱えていた。
彩花は「自分には何もできない」と悩み、蒼真もまた、過去に救えなかった魂を胸に抱えていた。
雨の中で出会った一人の少年。
その少年を救う旅は、いつしか四人それぞれが自分自身の心と向き合う旅へと変わっていく。
そして最後の雨の日。
少年は、自分が最も恐れていた記憶と向き合う。
「僕は……帰ってもいいの?」
雨が降り続く谷町で、少年が最後に見せる笑顔とは――。
これは、死者を救う物語であり、
死者との出会いによって、生きている者たちも前を向いていく物語。
そして少年が消えた後も、雨は静かに降り続ける。
――雨は、まだ誰かの名前を呼んでいる。