あらすじ
「今年の一番は、奥様でございます」
婚礼から三日目の朝、侍女は当たり前のことのようにそう言った。
ヴァルドレン辺境伯領では、毎年ひとり、籤で選ばれた娘が北の館へ送られる。
今年その籤に当たったのがセリカだった。家族は安堵し、彼女に礼を言って送り出した。
夫となったヴィルヘルムは、冷酷と噂される男だった。
婚礼の夜、彼はセリカの顔も見ずにこう言った。「この家のことは、何も覚えなくていい」
けれどセリカは、覚えてしまった。
この領には冬の決まりがある。雪が降るあいだ、冬名簿の順に、領民が一人ずつ森へ入る。
誰も戻らない。誰も嘆かない。順番が来た者は、自分から歩いていく。
名簿は書き換えられない。それがこの土地の作法だと、皆がそう言う。
――今年の冬名簿の一番上に、嫁いできたばかりのわたくしの名がございました。
セリカに、怪異を祓う力はない。順番を変える権限もない。
あるのは、昨日この家に何人いたかを覚えていることだけ。
そして彼女は知る。
冷酷と噂される夫が、毎晩ひとりで名簿を書き換えようとして、失敗し続けていることを。
鐘が鳴るたび、この家から一人ずつ減っていく。
あと十一人。
※全30話・完結まで執筆済み。毎日更新、六日目の朝に完結します。ハッピーエンドです。