あらすじ
三姉妹の長女として育ったチカには、ひとつだけ密かな憧れがあった。
――年上の人に、思いきり甘えてみたい。
そんなチカが、気の進まない合コンで出会ったのが、京都大学大学院生のムサシだった。
悩みを聞いてくれる。
くだらない話にも付き合ってくれる。
困ったときには、少しだけ先を歩いて助けてくれる。
気づけばチカにとって、ムサシは「お兄ちゃん」のような存在になっていた。
ムサシにとっても、チカは妹のシナノと同じように放っておけない妹分。
京都に暮らすムサシ。
夙川で暮らすチカ。
東京に暮らすシナノ。
血のつながらない三人は、少しずつ家族のような関係を築いていく。
けれど、チカの心には忘れられない人がいた。
――タカ。
そのことを知っても、ムサシは「忘れろ」とは言わなかった。
「忘れなくていいんじゃない?」
その言葉に支えられながら、チカは少しずつ自分の気持ちと向き合っていく。
そして、二人が出会って一年。
チカは初めて気づく。
自分がムサシに抱いていた感情は、「お兄ちゃん」への憧れなんかじゃなかった。
「ムサシだから、好き」
二人は、ようやく恋人になる。
――その翌日。
ムサシは、ボルダリング中の事故で帰らぬ人となった。
あまりにも突然の別れ。
残されたチカとシナノは、悲しみの中でムサシの遺したものを整理していく。
そして見つかった、彼が研究していたフルダイブ型VRシステムに関する謎のデータ。
事故の直前、ムサシはいったい何を知ったのか。
そして――あの日の事故は、本当にただの事故だったのか。
これは、兄妹のようだった二人が恋人になるまでの一年間と、その後に残された人々の物語。
失ったからこそ、初めて気づくものがある。
ムサシがいなくなっても、チカとシナノの日々は続いていく。