あらすじ

腹の中に宇宙がある。それでも家賃は待ってくれない。  築年数を大家も数えるのをやめた木造アパート、しあわせ荘。敷金は安い。駅から遠い。風の夜には二階の廊下が鳴る。  住人は全員、腹の中に本物の宇宙を飼っている。腹が減れば台所の重力が狂い、泣けば廊下に星雲が出る。転べば内側では天変地異、外側では膝を押さえて「見なかったことにして」と言う。  管理人・普来夢の宇宙だけは、星も住人もいない空っぽだった。だから彼は今日も、醤油さしを拾い、暴走した給湯器をなだめ、保健所には古い建物のせいだと嘘をつき、滞納中の家賃を待つ。  けれど二〇一号・堕空の胸にある小さな穴は、半年前より確実に大きくなっていた。  半年ごとの点検で下された判定はD。穴の中心にあるのは、宇宙を「あるものごと」消してしまう終端域だった。  治る保証はない。逃げる理由なら、いくらでもある。  それでも四人は、卵一つと豆腐半分、それから賞味期限を二日過ぎたちくわで、今夜の夕飯を作りはじめる。  部屋は五つ。  二〇四号は、ない。  六畳一間とブラックホールの、ボロアパート宇宙人ドラマ。第一部・全三十話完結済。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/08/25
  • 現在の作品しあわせ荘、二〇四号