あらすじ
「十一人分が空です」
初雪まであと十日。臨時の俸給書記マルレーネは、侯爵家の帳簿に並ぶ未払いを赤鉛筆で囲んだ。若き侯爵ドゥアルテと共同監査を始めると、消えた銀貨だけでなく、薪と借家料の流用まで見つかってしまう。
事情と責任は別勘定。十一人の俸給、親子三人の暖炉と八時間の睡眠、三十四戸の薪を取り戻すため、彼女はひたすら数え続ける。
一方、無表情な侯爵は湯を運び、椅子を寄せ、なぜか彼女の冷えた指ばかり見ていた。監査への配慮だと思っていたのに、朝食席で涙と嫉妬まで晒して求婚され――緊張したマルレーネが数え始めたのは、返事ではなく二人分の朝食当番だった。