あらすじ
ヴェルデ辺境伯家の給金台帳には、四十人の名前が並んでいる。
そのうちの一人が、勝手口の受取番ハンナ・ケラー。今月もきちんと給金が出ている。受領の欄には小さな十字の印。二十四か月、一度も欠けていない。
ただ、その侍女は二年前に亡くなっている。
銀器を盗んだという理由で屋敷を追い出された。村へ帰って、その冬に死んだ。
王家の財務監査官リーゼロッテ・フェルマー、十八歳。彼女はどの家でも必ず給金台帳から読む。帳簿の中でただ一つ、生きている人間の名前が並んだ帳面だからだ。
三十年この家の帳簿をつけてきた執事頭は、胸を張ってこう言った。
「三十年、この家の帳簿を一度も間違えたことはありません」
ええ。間違いは一つもございません。
ご安心ください。今月もお給金は出ておりますので。