あらすじ
黒川爽士
自己嫌悪に満ちた中学生・爽士は、課題の自己分析をきっかけに教師との面談へ呼び出される。理解を装う大人の視線に警戒しつつも、内面を見透かされかける不安を抱える。一方で家庭では父への恐怖に縛られ、安らぎを得られない日常を過ごしていた。唯一心を許せる彼女と、鉄塔の下で密かに進める“計画”。その存在が救いであると同時に、やがて日常を取り返しのつかない崩壊へ導く予感を孕んでいく。
中村
自己分析の任意課題に取り組んだ四人の生徒の中で、黒川爽士の率直で矛盾に満ちた内面に強く心を動かされた教師・中村。家庭と学校の双方で幸福を実感しながらも、生徒一人ひとりの未来に責任を感じる彼は、その声の真意を確かめようと面談に臨む。恐れや戸惑いを抱える爽士と向き合う中で、互いに理解への一歩を踏み出していく。未熟さや揺らぎを抱えたままでも、人は誰かと関わることで変わり始める――そんな希望が静かに芽生えていく物語。
和倉千登勢
幼い頃、少女には毎日のように部屋を訪れる幼なじみがいた。漫画を読み、他愛ない時間を分け合い、小さな虫に「ハル」と名をつけた記憶は、何気ない日々のなかで確かな輝きを放っていた。やがて時は流れ、自己分析の課題に向き合う中で、少女はハルの死骸をきっかけに、胸の奥へ沈めていた追憶と淡い想いを静かに掘り起こしていく。すでに遠ざかったはずの彼の笑顔はなお鮮やかで、その記憶は消えかけた恋心にそっと火を灯す。儚くも確かな願いを胸に、少女は過去を見つめながら、自分の心の行方を探し始める。