あらすじ
高校二年生・神崎慧にとって、人との距離は近いほど厄介だ。
鋭すぎる嗅覚のせいで、香水も、汗も、誰かが残していった微かな匂いも、人よりずっと強く届いてしまう。だから高校生活は、できるだけ静かに、他人とはほどほどの距離で過ごしたい。
ところが慧の周りには、世話焼きな幼馴染、明るいギャルの同級生、少し背伸びしたい後輩、穏やかで上品な先輩がいる。学校で息をつけるのは、旧校舎の香道部作法室。そこもまた、彼女たちと過ごす場所になっていく。
そんな日々のなかで、慧はふと、言葉や振る舞いと、鼻が拾うわずかな変化が噛み合わないことに気づく。それは強がりなのか、隠し事なのか。それとも、自分の見立てそのものが間違っているのか。
鼻だけで、その理由までは分からない。その先を知るには、結局その人と向き合うしかない。
そうして誰かを知るたび、慧が守りたかった「ほどほどの距離」は、いつの間にか縮まっていく。