あらすじ
「その技は俺だけのものだ。受けの女が、写すんじゃない」
王立剣技院の〈受け太刀〉サビナ、三十四歳。二十年、騎士たちの技をこの身に受けて、写して、崩して返してきた。負けるのが仕事。だから誰も、彼女が強いとは知らない。
新任の剣聖ゾルドはその受けを「盗み」と呼び、彼女を剣技院から放り出した。サビナは一礼して、受け納めの一手を願い出た。
「もう一度どうぞ。次は、私が上です」
神速と誇った抜き打ちは、半歩だけ内側の抜き打ちに割られた。十体の幻身は、十一体に取り囲まれた。即死の毒手は、一拍だけ早く効く毒手に先を越された。
彼女は、一度受けた技を〈ちょうど一段だけ上〉で返す。二段上は出せない。だから毎回、際どく見える。それでも、決して負けない。
技を独り占めする連中は、彼女を訴えられない。訴えれば「俺だけの技」が写ったことを、認めることになるからだ。出し惜しみをやめない悪党ほど、その日いちばん強くなって彼女に負ける。だから、みんな最後は無言で剣を置く。
下町の道場に、小さな看板が掛かる。〈返し稽古処〉。取り上げられた技と看板を、今日も一枚ずつ取り返す。