あらすじ
時は大正。横浜で貿易商「蘇芳屋」を営む資産家・九鬼庚興は、東京に住まう子爵令嬢・神宮寺夕紀子と、日々、人目を忍んで逢瀬を重ね、愛を語らっていた。しかして、夕紀子には他に婚約者があった。夕紀子は、これまで「呪われた女」として上流階級社会でつまはじきにされていたのに、99回目の縁談にして、爵位目当ての成金子息が求婚し、とうとう結婚が決まってしまった。双方の家では、その準備も着々と進んでいる。庚興は焦っていた。なぜなら、彼女は、長年、彼が捜し求めて、ようやく巡り逢えた運命の女性だ。いまさら、他の男に愛しい夕紀子を奪われるなんて冗談じゃない。だからといって、かの恋敵との婚約破棄のために、自分より10歳も若い夕紀子を欲望のままに抱いて穢してしまうのも気が引ける。喉から手が出るほど欲しているのにままならない。そんな或る日、夕紀子が、自分との縁を結んでくれた神社に「御礼参りにいきたい」と言った。庚興は快く承諾したものの、彼は、実は、その身に負うた業ゆえに、神域に入れない体だった。それは、愛する夕紀子にも打ち明けられない、遠い過去のつらい記憶――。そんな彼に、旧知のキツネが語り掛ける。「貴方がたが結ばれるか否かは、貴方がた次第ですよ」===ただ1人の愛するつがいのために人生を捧げた、悲しき男の執愛ファンタジー。
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