あらすじ
この家には、三つのルールがある。
一つ。
夜十一時を過ぎたら、玄関を開けない。
二つ。
二階の鏡には、絶対に布をかけたままにする。
そして三つ。
玄関の外から「ただいま」と聞こえても、絶対に返事をしない。
高校二年生の宮下紬は、幼い頃から母にそう教えられてきた。
「どうして?」
そう聞いても、母は決まって答える。
「昔から、この家ではそうなの」
ある雨の夜。
母の帰宅を待っていた紬の家に、
玄関の外から声が聞こえる。
「ただいま」
それは、間違いなく母の声だった。
しかし、そのとき母はまだ職場にいた。
やがて家の中のあちこちから、
「ただいま」
「ただいま」
「ただいま」
と、家族の声が聞こえ始める。
そして紬は知る。
この家には昔から、
**「帰ってくるもの」**がいることを。
それは家族の声を真似る。
家族の記憶を知っている。
そして、
返事をした人を「家族」として家の中に取り込む。
では――
もし、あなたの目の前にいる家族が、
本物ではなかったら?
そして、
本物の家族はどこへ消えたのか?
最後に残るのは、
「誰を信じればいいのか」という恐怖。
一度返事をしてしまったら、もう元には戻れない。
――あなたなら、
玄関の外から聞こえる「ただいま」に、
「おかえり」と返しますか?