あらすじ
三十二歳の会社員・高橋悠真のもとへ、隣人の佐藤さんがいつもの回覧板を持ってきた。
公園清掃のお知らせ。資源ごみ収集日の変更。防災訓練。犬のふんへの注意。回覧板は速やかに回しましょう――。
いつもの町内会のお知らせに混じっていたのは、一枚だけ妙に新しい白い紙だった。
《本日の死亡予定》
《高橋悠真》
しかも右下には、朱色の《死神局 第一地区担当》の印。
悪趣味ないたずらだと思っていると、インターホンが鳴る。
玄関に立っていたのは、全身黒ずくめの若い女性だった。
「死神局第一地区、見習い職員、三上しおりです」
死神――なのだが、どうにも頼りない。
本当は資料管理課志望。研修で習った規則には忠実。秘密にしなければならないことをうっかり口にしては「忘れてください」と頭を下げ、失敗すれば始末書を恐れる、新人死神である。
そして彼女が高橋の家へ来た目的は、命を奪うことではなかった。
「高橋悠真さんを、死なせないために来ました」
しおりのミスによって、高橋は本来知るはずのない自分の死亡予定を知ってしまった。そのため未来が変化し、死因さえ分からないまま、死亡時刻だけが刻々と迫ってくる。
本棚、階段、冷蔵庫、ビール、麦茶――。
いつもなら何でもない日用品まで、今日だけは高橋を殺すかもしれない。
しおりは必死に高橋を守り、ついに死亡予定時刻を乗り越える。
ところが、白紙になった死亡予定表に、新しい名前が浮かび上がる。
《佐藤健三 七十五歳》
さっき回覧板を届けてくれた、隣のおじいさんだった。
高橋は当然のように言う。
「助けに行きましょう」
しかし、しおりは動かない。
高橋の場合は、彼女の失敗によって死亡予定を知ってしまった例外だった。佐藤は違う。正式な死亡予定者である。
助けることはできる。
けれど、助けてはいけない。
それが死神の仕事だ。
死神局では、死亡予定者を「個人」として見ないよう教育される。名前、年齢、死亡予定時刻。それ以上を知ってはいけない。
ところが佐藤は、しおりに家庭菜園で採れた真っ赤なトマトをくれる。
「若い人が来ると張り合いがある」
ただの《佐藤健三・七十五歳》だった文字列が、その瞬間、「トマトをくれた人」になってしまう。
そして午後十一時十七分。
脚立から落ちようとする佐藤を前に、しおりは死神局の規則を破る。
――人を知ってしまった死神は、その人の死をただの予定として扱えるのか。
こうして、平凡な会社員・高橋悠真と、真面目で不器用な新人死神・三上しおりの奇妙な日々が始まる。
死亡予定表には、次々と町の人々の名前が現れる。
助けるべき人。
助けてはいけない人。
死にたくない人。
自分の死亡予定を知らない人。
そして、死ぬことを受け入れている人。
一方、規則違反を重ねるしおりにも、死神局から処分の影が迫ってくる。
町内会、住宅街、コンビニ、公園――どこにでもある日常のすぐ隣に、「死ぬ予定」だけが当たり前に存在する世界。
けれど本作で描くのは、死そのものではない。
誰かの名前を知ること。
言葉を交わすこと。
トマトを一つもらうこと。
その人を「死亡予定者」ではなく、一人の人間として見てしまうこと。
そんな小さな出来事によって、決められていたはずの未来が少しずつ狂い始める。
これは、死なせることが仕事の新人死神と、なぜか彼女と一緒に人を助けることになった普通の会社員が、町内会の回覧板から始める――
ちょっとおかしくて、ときどき切ない、「予定どおりに死ねない」人たちの物語。
なお、本作は、カクヨムに投稿された同名の小説の漫画脚本版の冒頭である。