あらすじ
帝国中から"歌姫"と讃えられたエレノア・ヴァルフレードの人生は、たった一夜で暗転した。異母妹と、婚約者だった皇太子の企みにより喉に毒を盛られ、二度と歌えない体にされたのだ。婚約破棄と同時に、傷心のまま帝国最果ての朽ちた修道院へと追放される。
絶望してもおかしくない状況で、エレノアは膝を折らなかった。
「歌えないなら——私の頭脳で、最高の歌姫を創ればいい」
そんな彼女の耳に届いたのは、修道院の"落ちこぼれ"聖歌隊が奏でる酷い不協和音。声が大きすぎる巨漢の騎士見習い、声が低すぎる無口な魔導士、リズム感が壊滅的な美少年——誰もが見放した3人の声に、音響魔導のプロフェッショナルであるエレノアだけは「重ねれば天を揺るがす奇跡の調和」を見出す。
科学的な分析と魔導の知識、両方を武器に、声の出ない体のまま彼らを鍛え上げていくエレノア。だがその矢先、彼女を追放した張本人たち——異母妹と元婚約者の皇太子——が視察にやってくる。目的は、修道院の取り壊しとエレノアの処刑。
権力と"伝統"を振りかざす相手に、エレノアが叩きつけたのは圧倒的な「エンターテインメントの力」だった。礼拝堂を舞台に変え、光の魔導演出と3人の奇跡のハーモニーが融合したゲリラライブが幕を開ける。声を失ったはずの歌姫が生み出した、かつてない熱狂。民衆の歓声はやがて、取り壊し命令すら呑み込んでいく。
そしてこの奇跡のステージを、影から見つめる一人の男がいた。冷徹な策士と噂される公爵、クラウス・フォン・オルデン。彼はエレノアの中に、全財産を賭けるに値する"何か"を見出してしまう——。
歌姫は、もう歌わない。けれど彼女が創る舞台は、これから帝国の常識を、そして世界のあり方すら塗り替えていく。