あらすじ
新卒で入った会社で出会った、地元も近い同期のA。
彼氏がいた私に、Aはなぜか先輩たちの前でだけ「好きだ」「いい女だ」と繰り返した。二人きりになればそんな素振りはなく、私はずっと「先輩に可愛がられるためのネタにされているだけ」と思っていた。
それなのに、酔いつぶれても「会いたかった」と言われたり、私のいないところで「会いたい」と話していたと聞いたりするうちに、心の片隅にひとつの疑問が残った。
――もしかして、少しくらい本当に私のことが好きだった?
Aとどうにかなりたいわけではない。私は結婚し、二人の子どもにも恵まれた。
それでも、学生時代に一度も「相手から好きになってもらう」という経験がなかった私は、Aの気持ちが本物だったと思えたら、どこか救われるような気がしていた。
そして出会いから約十年。
Aが会社を辞めることを知る。
もう会う機会もほとんどなくなるのなら、最後に聞いてみようか。
「あの頃、私のこと本当に好きだった?」
そんな欲が初めて顔を出した。
これは、同期への恋心の話ではない。
誰かに選ばれたことのある自分でありたかった私が、十年越しの答えを「聞かない」と決めるまでの話。