あらすじ
二百五十万円のフラッグシップバイク「ヴォルテックス」の購入方法は、色を選べない“車体ガチャ”。
人気の限定カラー――SSRを引けば歓喜。不人気カラー「ドブ緑」を引けば、大金を払った挙げ句にハズレを抱えることになる。
そんなガチャ会場を取材していた人気バイク系YouTuber・クロサキは、毎年ここへ来ているのに一度もガチャを回さない男、サエキに気づく。
サエキの目的は、ガチャを回すことではなかった。
抽選終了後に中古市場へ流れ出す、未走行の“ハズレ車”を安く買うこと。
そして、手に入れた車体を自ら好きなカラーへ塗り替えることだった。
その様子をクロサキが動画にすると、動画は大ヒット。
「ドブ緑を買って塗ればいい」という発想は徐々に広まり、中古車市場や塗装業者まで巻き込んでいく。メーカーがまだ販売していないワークス風カラーやスポンサーカラーまで、ユーザー側から生まれ始める。
やがてメーカーはサエキに声を掛けるが、彼はそれも断る。
メーカーが正式なSSRカラーにシリアルナンバーを付け、「本物には本物の価値がある」とブランドの優位性を示しても、サエキの考えは変わらない。
彼が欲しいのは、SSRという肩書きではない。
自分が乗りたいと思ったバイクそのものだった。
そして今日もガチャ会場では、誰かが大金を払って運を試している。
その隣でサエキは、安く手に入れたドブ緑の車体に、自分だけの色を吹き付けていく。
ガチャを否定する必要すらない。
最初から、その土俵に乗らなければいい。