あらすじ
水城紗良、30歳。独身、職業は看護師。
久しぶりに取れた三連休。
学生時代からの友人と京都旅行を楽しむ――はずだった。
ところが出発前日、友人から届いたのは「コロナ陽性」の知らせ。
新幹線もホテルも予約済み。
キャンセルするのももったいない。
「……行くか。一人で」
こうして始まった、三十路女の京都一人旅。
翌日、平安時代が好きな紗良は宇治を訪れる。
宇治川のほとりにある歴史博物館で、なぜか一通の古い文から目を離せなくなった。
作者不詳。
誰に宛てられたものなのかも分からない、千年近く前の文。
そこに残されていたのは、
――来世にて、今一度。
という言葉だった。
知らないはずの文を見て、なぜか涙がこぼれる紗良。
その夕暮れ。
霧に包まれた宇治川で、聞いたことのない男の声が彼女の名前を呼ぶ。
「――紗良」
そして次に目を覚ました場所は――平安時代だった。
病は祟り。
不可解な出来事は物の怪の仕業。
女性の生き方も、恋の作法も、現代とはまるで違う世界。
看護師として身につけてきた常識など通用するはずもない……と思ったら、意外なところで役に立つ。
「物の怪に憑かれた!? その前に熱を測らせて!」
ところが紗良は、やがて思い知ることになる。
この時代には、現代医学ではどうしても説明できない“もの”が、本当に存在していることを。
そんな紗良の前に現れたのは、誰もが頭を垂れるほどの権力を持ちながら、決して本心を見せようとしない一人の男。
出会うはずのなかった二人は、文を交わし、言葉を重ね、いつしか互いを想うようになっていく。
けれど紗良は、この時代の人間ではない。
やがて訪れる、元の時代へ帰るためのただ一度の機会。
愛する人のいる千年前に残るのか。
それとも、自分が生きる現代へ帰るのか。
そして、宇治川に隠された古い文と、満月の夜に現れる物の怪の正体とは――。
30歳看護師が迷い込んだのは、雅やかなだけではない平安の世。
恋をして、もののけと戦って、ときには逃げて。
千年という時を越えてつながる、少し笑えて、少し切ない平安タイムスリップ恋物語。
――たとえ貴方が姿を変えても、私はきっと分かるから。