あらすじ

妹の恋文を書くのが、わたしの役目でした。 八つのころ、字の下手な妹に頼まれて、一通だけ書きました。それが十年続きました。 文に書いたことは、ぜんぶ妹のものです。会った日も、贈られた花も、交わした約束も。わたしが足したのは、並べる順番と、書かなかった一行だけ。 ですからこれは、わたしの手紙ではありません。妹もそう思っております。 「わたしの気持ちを、お姉様が代わりに整えてくださっただけ」 ――ただ、便箋の向こうの方は、そうは思っていらっしゃいません。 妹の婚約者、ヴァンドーム公爵家の御子息。十年で、お会いしたのは三度きりです。 あの方が恋をなさったのは、便箋の上の誰かでした。それが誰なのかは、どなたもご存じありません。妹も、あの方も、わたしも。 婚礼を一月後に控えた夜、妹が笑って申しました。 「代筆なんて、誰にでもできることですものね」 わたしはうなずいて、筆を置きました。 「では、明日から」 翌朝、十年ではじめて、妹が自分の手で一通書きました。 明るく、礼儀正しく、文句のつけようのない一通でございます。 ――その日から、あの方のお返事が、少しずつ短くなってまいりました。 申し上げておきますが、わたしは何もしておりません。名乗ってもおりません。責めてもおりません。 書くのを、やめただけです。

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カクヨム
カクヨム2026/08/24
  • 現在の作品妹の恋文は、十年ぶん全て私が書きました ~「代筆なんて誰にでもできる」と言われたので、本日限りで筆を置きます~