あらすじ
六十五歳の心理学研究者・高宮征一。学会では犯罪心理学の権威として名を馳せる一方、その内側には五十年間腐り続けた傷が眠っていた。中学時代、同級生から受けた徹底的な暴力と嘲笑――その記憶を、彼は「治療」ではなく「再現」によって清算しようとする。
闇のルートで手に入れた加害者本人のDNA。名古屋郊外の洋館の地下に築いた密室。そこで高宮は、かつて自分を踏みにじった少年の複製を、一から育て上げる。
赤子は育ち、言葉を覚え、そして「なぜ閉じ込められているのか」と問い始める。支配と情のあいだで揺れる高宮。だが少年は、育ての手から与えられた知識と観察眼を、いつしか自分自身の武器へと変えていく。
父と呼ばれた男の死。九年の沈黙。そして少年は、自分の名を持たぬまま生き延びた先で、高宮が最後まで隠していた「計画」の全貌――地下深くで今も動き続ける、人体実験ネットワークの正体に行き当たる。
これは、憎しみから生まれた者が、憎しみを継がずに生きられるかを問う長編サスペンスである。