あらすじ
差別をなくそうとするほど、差別された人が無視されていく。
そんな逆説があるとしたら――あなたは「善い差別」の存在を認められるだろうか。
「善い差別はある。」
そんな言葉は、差別を正当化するための詭弁だ――。
工学部4年生の高瀬理人も、そう思っていた。
理人の大学が、女性だけ受験できる「理工系女子枠」を導入する。
「女性だけが使える入口」を作る以上、それは性差別だ。差別ならば悪い。だから廃止すべきだ。
理人の理屈は、単純だった。
そんな中、女子枠導入後の入試で不合格になった男子受験生・佐伯悠真と出会う。
悠真は大学に問う。
「女子枠が必要なのは分かりました。
でも、男だから受験できない枠があった僕は、差別されたことにはならないんですか?」
大学から返ってきた答えは、
「差別であるとは言えません」
だった。
なぜ、必要な制度であることを証明するために、傷ついた人間の「差別された」という言葉まで否定しなければならないのか。
そして理人自身もまた、発達障害への合理的配慮を拒み、「全員を同じ条件で扱う」という公平さに追い詰められていく。
もし、誰かを救うために誰かへ不利益を負わせることが避けられないのなら。
それを「差別ではない」と呼ぶことは、本当に優しさなのか。
差別を一切認めない社会だからこそ、見えなくなる被害がある。
理工系女子枠、発達障害、合理的配慮、そして「公平」をめぐって、一人の青年がたどり着く逆説。
なぜ「善い差別」の存在を認めなければならないのか。
その答えを、「いただきます」という6文字に託した物語。