あらすじ
~登場人物の紹介とあらすじ~
【登場人物】
■デヴァン・アスター
二十九歳、人間。
首都ベルカの旧市街で果物店「月欠け果房」を営む元補給兵。
感謝を忘れず何事にも真剣だが、焦ると確認事項を延々と書き始める。
七年前に兄を亡くして以来、どれほど悲しくても涙を流せない。
人外の力を警戒しており、メハランとは会った瞬間から衝突する。
■メハラン・ヴォス
外見四十歳前後、実年齢百十二歳。
人の涙に触れ、そこに結びついた痛みを吸収できる人外「ネフェル」の危機監察官。
穏やかで危機管理能力に優れるが、他人を守るためなら自分が傷つくことを当然と考えている。
本人の同意なしに涙を吸収しないことを信条とする。
果物の味がほとんど分からず、「丸い」「皮が面倒」「汁が危険」で分類する。
■フレディ・ノール
二十歳、人間。
屋根伝いの配送を得意とする若い配達人。
一直線で諦めが悪い。
ある命令を信じたことから、連続空き巣事件に関わってしまう。
■エラ・セイン
三十二歳、人間。
共同保安局の記録官。
冷静で責任感が強く、封印された七年前の記録を調べている。
犬猿の仲であるデヴァンとメハランを、強制的に同じ捜査班へ放り込む人物。
■クエイク・バルド
三十六歳。
人間と人外の混血で、共同浴場兼理髪店の主人。
二人から別々に愚痴を聞かされ、本人のいない場所では互いを高く評価していることに真っ先に気づく。
■アルダン・ブレス
五十八歳、人間。
人間と人外の融和を進めてきた共同融和局長。
戦争で妻子を失っており、「悲しみさえなくなれば、人は争わなくなる」と信じている。
【あらすじ】
人間と人外の七年戦争が終わって七年。
共同統治領の首都ベルカで、奇妙な空き巣被害が続いていた。
盗まれるのは金でも宝石でもない。
亡くなった家族から受け継いだ懐中時計や、古びた玩具――大切な人の「遺品」だけ。
しかも被害者たちは、遺品を失うたびに少しずつ、亡くなった人を愛していた記憶まで失っていく。
果物店主デヴァンも、七年前に死んだ兄の形見を盗まれた。
捜査に現れたのは、人の涙から悲しみを吸収できる人外の監察官メハラン。
「人の涙を食う奴なんか信用できるか」
「結構です。あなたも現場を荒らさないでください」
会えば口論。
生活習慣も価値観も正反対。
それなのに危険が迫れば、打ち合わせもしないまま同じ判断をする。
やがて二人は、盗まれた遺品が、戦時中に封印された巨大装置「静穏鐘」の起動に使われようとしていることを知る。
鐘が鳴れば、人々は悲しみから解放される。
代わりに――亡くした人を愛していた理由も、過ちを悔いた記憶も、誰かを許そうとした思いも失われる。
さらに七年前、デヴァンの兄が死んだ場所にはメハランがいた。
兄の最期の涙を吸収したのも、メハランだった。
「お前のことは許せない」
過去を知り、二人は決裂する。
それでもデヴァンは最後にこう告げる。
「許すとは言ってない。信用すると言ってる」
そして静穏鐘を止めるため、メハランは自分自身の記憶を差し出す。
たとえ相棒を忘れても。
たとえ出会いからやり直すことになっても。
――この二人なら、何度でも互いを選び直せる。
泣けない果物屋と、涙を食べる人外。
仲が悪くて、息だけは誰より合う二人が、
悲しみを消すのではなく、誰かと抱えて生きる道を取り戻す物語。