あらすじ

「私はこの足利へ参り、まことの愛というものを知りました」 祭りの席で、大身の若君が立ち上がった。 家の都合で結ばれた縁は、縁ではございません。 そう言って、彼は許嫁との契りをその場で断つ。かわりに娶ると宣言したのは、町で見初めた娘。 ――ここまでなら、よくある話だった。 若君は続けた。捨てられた姫が、その町娘に嫌がらせを重ねてきたのだと。並みいる名代たちの前で、一つずつ数え上げていく。 「罪を恥じ、髪を下ろされよ」 誰も止めなかった。姫自身が、顔も上げずに答えたからだ。 「承りました」 断るという道が、はじめから無いかのように。 「お待ちください」 立ったのは、父の名代として座らされていただけの、十四の娘だった。城主の代わりに席を埋めて、菓子を食べて帰るはずだった。政も交渉も分からない。分からないまま、それでも言ってしまった。 「調べていないと思います」 嫌がらせがあったのか、なかったのか。誰も調べていない。それで髪を下ろすのはおかしい。 場所をわきまえろと大人たちが諫めるなか、ひとりの老僧が笑い出した。 「ではやってみますか」 踏まれた糸。突き返された布。嘘は、人の口と、目の前の現物に残る。 そして訴えが崩れたとき、髪を下ろすはずだった姫が、生まれてはじめて自分の言葉で口を開く。 飾りとして座らされた娘が、飾りのままでは帰らなかった一日の話。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/08/24
  • 現在の作品14.428