あらすじ
六千六百万年前、巨大隕石は地球を滅ぼさなかった。
恐竜たちは生き残り、長い年月の果てに、火を扱う知性を手に入れた。
その中でもトロオドンは、火と木を操り、狩場を築き、繁殖地を守り、地上の覇者となっていた。
森の奥でひっそりと暮らす類人猿にとって、彼らは抗うことのできない捕食者だった。
幼い命は奪われ、群れは追われ、森の外へ出ることすら許されない。
それでも、類人猿は火を知った。
火を使い、火に敗れ、そして火を持つ者たちを観察した。
真似するだけでは足りなかった。
自分たちの手で結び、自分たちの身体で運び、自分たちの森に合わせて変えていく。
やがて彼らは気づく。
トロオドンの強さは、巨大な身体だけではない。
一つの祖火を中心に、巣と狩場と道をつないだ「文明そのもの」が強いのだと。
ならば、その文明をほどけばいい。
一つの大きな火に対して、無数の小さな火を。
地上を支配してきた恐竜たちと、まだ名もない類人猿たち。
これは、一匹の英雄が世界を変える物語ではない。
捕食者と被食者の関係が、何世代もの時間をかけて反転していく物語。
灰に覆われた大地で、緑の火が燃え始める。