あらすじ
「聖女の力なき偽聖女め、貴様との婚約を破棄する!」
王太子の断罪を、クラウディアはただ静かに受け止めました。泣きすがることも、弁明することもなく――ええ、そんな義理などございませんもの。
彼女には前世の記憶がありました。この世界は、かつて読んだ古い伝承集『夕暮れの鐘』の舞台。そして村外れの朽ちた鐘楼こそ、王国全土を魔物から守る結界装置なのだと知っていたのは、彼女ただ一人。
「厄災を呼ぶ鐘」と恐れられ、石を投げられながらも、雨の日も雪の日も、熱を出した日でさえ、彼女は三年間鳴らし続けました。偽の聖女の「浄化」が効いていたのも、実はこの鐘の残響のおかげ。けれど、教えて差し上げる義理もございません。
「今日限り、鐘を鳴らすのをやめさせていただきます」
領地を剥奪され、王都を追放されたクラウディア。けれど辺境ヴェルデ村では、彼女の献身に気づいた村人たちが道の両脇に並び、深く頭を下げて迎えてくれました。報われないことに慣れていたはずの胸が、じんと熱くなります。
一方、王国は――聖女を捨てた代償に、滅びの秒読みへ。
最後にたった一度だけ鳴らした鐘の音は、思わぬ運命を呼び覚まします。頼もしき将軍との出会い、そして眠れる古き竜の目覚め……。
「せっかく、平穏に暮らそうと思っておりましたのに。……まあ、知りませんけど」
報われなかった聖女令嬢が、静かに、しかし確かに世界を動かしていく――痛快ざまぁと心温まる再評価、そして次なる伝説の幕開けを描く物語。夕暮れの鐘は、嘘をつきません。