あらすじ

俺の顔は動かない。 生まれつき表情筋がほとんど仕事をしていない。笑おうとしても口角が上がらないし、驚いても眉が動かない。医者には「珍しいけど害はない」と言われた。害はないらしい。 なのに世間は、それを「クールすぎる」と呼ぶ。 六時間目に窓の外を見ていた顔を撮られて、教室が沸いた日も、俺が考えていたのは二日目のカレーのことだった。じゃがいもが溶けかけているやつが最高だ。 その日の夜、妹が無断で投稿していた動画の再生数を見た。 四十万。 そこから全部おかしくなった。 俺には体質があった。本気で見られている間だけ、身体の制御も、声も、間の取り方も、全部が跳ね上がる。注目が燃料。誰かが本気でこっちを見ている限り、俺は化け物になる。 逆に言えば、誰も見ていない練習では一ミリも伸びない。レッスンでは全国最下位、本番だけ神。業界の人はそれを「天才肌」と呼ぶ。呼ばないでほしい。 おまけに使ったあとは三時間、身体が言うことをきかない。人前で崩れたら全部バレるので、毎回それを無表情で耐えている。傍からは「余裕の帰り際」に見えるらしい。誤解だ。 スカウト、事務所、トップアイドル、生放送、そして同い年の天才俳優。 俺は何ひとつ望んでいない。ただ、断る理由が特にないだけだ。 なのに誤解は全部いい方に転がる。仕事は勝手に増える。大人たちは勝手に必死になる。俺が黙って腹を減らしているあいだに、話は大きくなっていく。 嘘みたいな速度で階段を上らされながら、俺が考えているのはいつも同じだ。今日の夕飯と、早く家に帰りたいということ。 ・1日3回更新(6時・12時・18時)。完結まで書き切ります。

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小説を読もう2026/08/23
  • 現在の作品見られている間だけ天才 ~無表情なだけの俺が、いつのまにか国民的俳優にされていた~