あらすじ
「書くのか、書かないのか。どちらだ?」
午前二時。真っ白なWordの画面を前にぼんやりしていた私の耳元で、突然、男の声がした。
驚いて手が跳ねる。最近、徹夜しすぎているせいに違いない。連載中の『偏執皇帝の囚愛』は、もう十二日も更新できていない。このまま一文字も書けなければ、幻聴くらい聞こえてもおかしくない気がしてきた。
ところが、直後にズボンの裾を何かに強く引っ張られた。
「何っ?!」
目の前のパソコンが急激に熱を帯び、画面の中央に真っ黒な亀裂が走った。そこから青白い手が伸びてくる。
続いて、長い黒髪の男が上半身を画面から乗り出した。華麗な黒い皇帝の礼装は、あちこちが墨で汚れている。
私はその顔を見た瞬間、息を呑んだ。
九条蓮司。
私が自分の手で書いた、この物語の主人公だった。
蓮司は恐ろしいほど暗い目で私を見据えた。
「お前が余の結末を書かぬというのなら――」
彼の手が私の手首をつかむ。
「中へ来い」
「残りは、余たち自身で演じればいい」
「待って――」