あらすじ
公爵令嬢リゼットは、聖女暗殺未遂の罪を着せられた。
信じていた婚約者である第一王子にも見捨てられ、弁明すら許されないまま処刑される。
――はずだった。
次に彼女が目を覚ましたのは、歴代最高の冒険者たちでさえ到達できなかった《奈落の大迷宮》最下層。
地上へ戻る道はない。
周囲にいるのは、竜、悪魔、死霊、巨大魔獣――人類が災厄と呼ぶ存在ばかり。
ところがリゼットが最初に目にしたのは、人間を襲う恐ろしい魔物ではなかった。
三百年間、一日も休まず侵入者を迎撃して疲れ果てた魔物たちだった。
「……あなた方、有給休暇はございますの?」
「ユウキュウ?」
「ございませんのね」
こうして元悪役令嬢による、最下層改革が始まった。
魔物には休日と給料を。
働く者には食堂と風呂を。
怪我をした冒険者には治療院を。
帰還できないなら宿屋を。
ついでに温泉を掘り、食堂を開き、安全な休憩階層まで整備した結果――。
「攻略より、ここに泊まりたい」
なぜか冒険者が帰らなくなった。
やがて噂を聞きつけた商人、職人、冒険者が押し寄せ、誰も攻略できなかった世界最難関ダンジョンは、世界で最も入りたい迷宮へ変貌していく。
一方、リゼットを処刑した王国はようやく気づく。
彼女が王国の財政、物流、領地経営を陰で支えていたことに。
さらに迷宮から産出される希少資源まで世界中が欲しがり始め――。
「戻ってきてくれ」
「お断りいたしますわ。わたくし、こちらの領主ですので」
これは処刑された悪役令嬢が、地上から捨てられた者たちを拾いながら、世界最難関ダンジョンを世界一幸せな領地にしてしまう物語。
本人だけは、地上へ戻る気など欠片もない。