あらすじ
「……それ、変じゃないですか?」
主演女優が倒れた撮影所で、彼女はひとりで床を見ていた。
——四十人がいた。誰にも、聞こえていなかった。
水瀬つむぎは、画面に映らない。
名簿では「町娘C」。三時間待って、六秒歩く。
だから、覚えてしまった。
小道具の置き場所。衣装の裏地。カメラの死角。
リハーサルと本番の、たった四十センチの違い。
撮影所には、映る人と、映らない人がいる。
彼女はずっと、映らない側にいる。
今日は町娘。次は腰元。その次は、制服とドレス。
現場が変わるたび、彼女は別人になる。
——たったひとつ、彼女がなぜ画面の端ばかり見ているのか、本人も知らない、ということを除いて。
【登場人物】
水瀬 つむぎ(みなせ つむぎ)
……高校二年。エキストラ歴三年。重い前髪、黒縁眼鏡、三年分の日焼け跡。名前を呼ばれたことがない。「私、エキストラなので」が口癖。
ただし衣装を着てメイクをされると、誰も彼女だと気づかない。本人も気づいていない。
そして自分が出た作品を録画して、真ん中ではなく、画面の端だけを止めて見ている。
朝倉 律(あさくら りつ)
……二十歳。人気若手俳優。芝居の評価は高いのに、取材では髪型の話しかされない。
役に入る瞬間、息が二回だけ深くなる。——それに気づいたのは、目が悪くて何も見えていなかった彼女だけだった。
桐生 ミナ(きりゅう みな)
……衣装部。つむぎを毎回、別人にする人。口が悪くて手が早い。自分が着せた相手が画面に映らないと、少し寂しい。
日下部 環(くさかべ たまき)
……スクリプター。現場の全カットを写真に残している。人の名前と顔は、まったく覚えられない。だから、全部書いている。
南 正臣(みなみ まさおみ)
……助監督。毎日、床にテープを貼って、毎日、剥がしている。誰も見ていない仕事だと思っている。
「キャラ名M」=モノローグ(心の声)
カドコミ漫画原作コンテスト応募作品のため、脚本形式