あらすじ
高校でもっと速くなるはずだった。
中学時代、短距離走で全国大会に出場した真夏は、強豪校へ進学する。
けれど入学直後、練習中に膝を負傷。
競技への復帰は難しいと告げられ、ずっと自分の中心だった陸上を失ってしまう。
走れない自分に何が残っているのか分からないまま、放課後のグラウンドを眺めていた真夏。
そんな彼女に声をかけたのは、学校中から信頼される生徒会長・高寺芳美だった。
「暇?」
「……暇ですけど」
「じゃあ、ちょっと手伝ってくれない?」
それが、二人の始まりだった。
完璧に見えて、誰にでも優しく、いつも穏やかに笑っている芳美。
けれど一緒に過ごす時間が増えるにつれ、真夏は彼女の小さな違和感に気づいていく。
好きなものを聞かれると答えられない。
自分のことになると、ほんの少し言葉に詰まる。
そして――誰にも、下の名前を呼ばせない。
やがて真夏は、芳美がずっと隠してきた「姉」の存在を知る。
走る未来を失った少女と、自分自身を見失った少女。
なくしたものは、なくなったまま。
それでも、好きだったものを好きなまま、新しいものを選ぶことはできる。
これは、二人の少女がそれぞれの喪失を抱えながら、自分自身と、互いへの想いを選び直していく物語。