あらすじ
「土いじりしかできない無能に、Sランクは過ぎた地位だ」
そう言い放たれ、冒険者ギルドを追放されたSランク鑑定士エルナ・フォルス。
だが誰も知らない。彼女の《万物鑑定》は、この豊かな国が滅びへと向かう薄氷の上に成り立っていることを、毎日教えてくれていたことを。
東の水脈は濁り、北の麦畑の地力は尽きかけている。半年後には、彼女を嘲笑った者たちは水さえ飲めなくなるだろう。
しかしエルナは弁明も懇願もしない。ただ静かに一礼し、種袋を揺らしながら大広間を後にする。
「喚くだけ無駄。種を蒔けば、いつか必ず実りと再会する」
向かった先は、誰も見向きもしない不毛の地・赤錆の谷。前世の農学の知識と土の声を聞く力で、彼女は眠れる大地を静かに蘇らせていく。そして老いた友『種爺』とともに、十年後に花開く神代の種――《世界樹の萌芽》を、二つの地にそっと埋めた。
国が枯れ果てていく中、蒔いた種はゆっくりと育ち――やがて訪れる、静かな実りの日。
喚かず、争わず、ただ土と向き合う女性の、十年をかけた壮大な因果の物語。蒔いた種は、必ず実る。それが、たとえ十年後でも。