あらすじ
伯爵令嬢マリヴェル・ローデンは、何をやらせてもそこそこできる、ごく普通の十五歳だった。
そんな彼女に舞い込んだ、三歳年上の侯爵令息エドガルドとの縁談。家格も人柄も申し分なく、悪くない結婚になりそうだと思っていたのだが――。
「私には、何よりも優先しなければならない人がいるんだ。」
婚約者からそう告げられ、紹介されたのは、侯爵家で療養している十三歳の美しい第二王子シリウスだった。
十八歳の美青年が、十三歳の美少年を「何より大切」だと言う。
――ああ。なるほど。そ、う、い、う、ことか。
若干どころではなく犯罪の臭いを感じ、婚約者をどう成敗するべきか考え始めた、その時。
シリウスが激しく咳き込んだ。
呼気性喘鳴。呼気延長。頻呼吸。
その瞬間、マリヴェルの中で十五年間眠っていた、前世の記憶が目を覚ます。
彼女の前世は、現代日本の総合病院で働く小児科医だった。
「あなたは、この方が何より大切なのですよね?」
「……そうだ。」
「でしたら私も、この方を最優先にします。婚約者であるあなたのためにも。」
医師を集め、病歴を取り、診療記録を作り、この世界の魔法医学を一から学び直す。
病弱だからと寝台へ閉じ込められていた少年を、歩かせ、食べさせ、学ばせ、少しずつ本来の人生へ戻していく。
ところがシリウスが元気になるにつれ、何故か婚約者エドガルドの様子がおかしくなって――。
婚約者が自分より大切だと言った相手なので、こちらも全力で優先しただけなのだが。
どうやら、少々優先し過ぎたらしい。
元小児科医の伯爵令嬢が、異世界の医療と、自分が本当に夢中になれる仕事と、ついでに予想外の恋を見つけるお話。