あらすじ

やがて自分の名前が言えなくなる少女は、五人組アイドルグループの、いちばん端に立っていた。 二番の入りの前、客席がふっと静かになる一瞬があった。 歌が届いた一秒だけ、ここにいていいと思えた。 仲間を想って、歌いながら泣いた夜もあった。 台本にないことを口にしたその日から、「素が出てて好き」と言われるようになる。 「素の亜咲海」は切り取られ、ファンが何度も再生した。 「泣いた亜咲海」は切り取られ、どこかで何度も再生された。 素と、その再現。 涙と、その再生回数。 ここにいていいと思えた一秒と、その一秒の作り方。 ライブでは、同じものを求められた。 鏡の前で、今日は何を言おうかと考える。素なのに、考えている。 泣くつもりは、なかった。なんで泣いたのか、自分でも分からない。 届いていたなら、それでよかった。 それだけの願いは、いつ、誰のものになったのか——。 わたしって、どこからどこまでだっけ。

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カクヨム
カクヨム2026/08/22
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