あらすじ
神崎怜が交通事故に遭った。
幸い、大きな外傷はなく、身体の検査でも深刻な異常は見つからなかった。問題があったのは頭のほうで、担当医によれば、事故の衝撃による逆行性健忘が見られるらしい。言葉や一般常識、成人としての日常生活能力や判断力は保たれているものの、自分自身に関する記憶が大きく抜け落ち、とくに小学生以降の出来事がかなり曖昧になっていた。
さらに厄介なことに、家族や医師、看護師には強い警戒心を示すくせに、なぜか私にだけははっきりと安心した反応を見せるという。
犬猿の仲だった怜が事故に遭ったと聞いたとき、最初に浮かんだ感想は「いい気味」だった。ところが病院から電話がかかってきて、目を覚ましてからずっと私を探していると聞かされ、さすがに嫌な予感がした。
その後、成り行きでしばらく怜の面倒を見ることになった。
最初は、とんでもない厄介者を押しつけられたと思っていた。
まさか、自分から家に入れたことを後悔する日が来るなんて。
勘弁してほしい。