あらすじ
十四歳の冬、高熱で生死をさまよったアデル・ド・ラヴェルは、前世の記憶を取り戻した。
前世では、東京で働く三十二歳の外資系戦略コンサルタント。
数字を読み、利害を整理し、交渉し、組織を動かすことを仕事にしていた。
そんなアデルが十五歳の春、父から突然告げられたのは――
「お前の婚約が決まった」
相手は十九歳年上、三十四歳のモントルイユ子爵ガスパール。
子のない寡夫であり、王国騎兵隊に所属する軍人だった。
この時代、伯爵令嬢の結婚が家同士の事情で決められることは珍しくない。
けれどアデルには、一つだけどうしても受け入れられないことがあった。
自分の人生なのに、自分だけが意思決定の場にいないことだ。
だから彼女は、すぐに逃げることも、感情のまま拒絶することもしなかった。
まず、調べることにした。
この婚姻は本当に断れないのか。
自分には何を要求できるのか。
持参財産は。寡婦になった場合の保障は。自由に使える金は。
そして、結婚したあとも、自分自身の判断で動ける余地は残せるのか。
古い法を調べ、家の帳簿を読み、父と母の仕事を知り、婚約者本人とも話をする。
やがてアデルは気づいていく。
爵位も財産も、ただ持っているだけでは力にならない。
本当の力とは、情報を持ち、人を知り、そして――自分の言葉を意思決定の場まで届けることなのだと。
これは、政略結婚から逃げる令嬢の物語ではない。
政略結婚さえも交渉の席に変えた少女が、領地経営と宮廷政治の世界へ踏み込みながら、
「自分の人生を自分で決める権利」を、やがて王国を動かす力へ変えていく物語。