あらすじ
その紙が漉かれたのは、署名の日の三年後でした。
王家文書院の記録官アニエス・ドレーヌは、ある朝、自分の署名入りの偽造文書を見せられる。
「わたしにはできます。ですから、わたしがやっていないことを、わたしの言葉で証明することはできません」
紙の年代を読めるのは書記官だけ。専門性はそのまま容疑の根拠になり、その日の夕、婚約者は人目のない馬車寄せで彼女を切り捨てた。四十日後の正本化の儀を過ぎれば、嘘は正史として確定する。
降格先の書庫の奥には、どの記録にも載っていない男が座っていた。
「あなたに頼みがある。俺がいたことを、書いてくれ」
偽造は、今回が初めてではない。六十二年前の火災から書き継がれてきた改竄の連鎖——その筆は、彼女の家のものだった。