あらすじ
置き手紙を一枚残して、勇者アルノルトは王都を出た。三十三歳。
魔王討伐も、後始末も、もう済ませた。爵位も縁談も、今さら要らない。
目立つ金髪を、どこにでもいる焦げ茶に。名乗るのは「トト」。生業は薬草士。
正体を知られないまま、気ままに諸国漫遊――のはずだった。
道中で、飛べないちびドラゴンを拾ってしまうまでは。
「あら、その肩の……」
「大きなトカゲです」
「へえ」
「トカゲです」
隠しごとが一つ増えた。食費も増えた。
「コゲ」と名前をつけた時点で、たぶんもう手遅れだった。
行く先々でも、妙な事件にばかり出くわす。
別に、助けたいわけではない。薬草士として気になっただけだ。
――本人は、本気でそう思っている。
昔の力は使わない。使えば痕跡が残る。噂が立つ。また「勇者様」に戻ってしまう。
だから薬草の知識と、旅で覚えた生活の知恵で、できることだけやっていく。
用が済めば、礼を言われる前にそっと発つ。
――もっとも、それだけでは済まない日も、来る。
一方、王都では勇者の捜索が続いていた。
調査官が探しているのは、金髪の英雄「勇者アルノルト」。
夜の宿で「食べ物、何か残っていませんか」と頭を下げる焦げ茶の薬草士など、捜索対象ですらない。
おっさんとちびドラが行く、ほのぼのほろ苦い諸国漫遊ファンタジー。