あらすじ
魔法が当たり前に使われる王都で、魔法を使えない髪結い師エステル。
彼女の店は、流行の髪型を売りにする店から「時代遅れ」と笑われ、弟子まで引き抜かれてしまった。
それでもエステルは、やり方を変えない。
流行だからと無理に髪を梳かない。
一か月後、二か月後の髪の伸び方まで考えて鋏を入れる。
そして最後は、客自身が毎朝整えられるかを確かめる。
「店を出た瞬間が完成ではありませんから」
客足が減っても、彼女はただ髪と向き合い続けた。
そんなある日、地方から一人の女性が訪れる。
彼女の髪を見ただけで、エステルは気づいた。
――この人も、髪結いだ。
やがて王都から遠く離れた場所からも、髪結いたちがエステルの店を訪れるようになる。
彼らが求めていたのは、最新の流行ではない。
「一か月後も、自分の手で綺麗にできる髪」だった。
流行遅れと笑われた小さな髪結い店。
そこにはいつしか、全国の腕利きたちがこっそり通うようになっていた。