あらすじ
死者に触れると、その人間の最後の一分だけを追体験できる。
代償は、自分の寿命が一日減ること。
魔法が枯れて二百年。残ったのは〈余燼〉と呼ばれる、しょうもない一芸だけだった。港湾都市ヴェリガルの下級役人グレンは、自分の余燼を「実用性なし」と偽って台帳に登録し、検屍局の書記見習いとして静かに暮らしていた。無能には、誰も期待しないからだ。
事故として処理されるはずだった、身元不明の水死体。
だがグレンがその最後の一分を視たとき、水面の向こうから見下ろしていたのは――衛兵隊次長の顔だった。
そして男の唇は、こう動いた。
「あと、ひとり」
寿命を一日ずつ支払いながら、無能を装う書記が、港町の腐敗をひとつ残らず暴いていく。
魔法のない世界の、地味で確実な逆襲が始まる。