あらすじ
建国の女王は言い遺した。
「誰も本当のことを言わないから、国が滅ぶ」
だから王家には、役職がひとつ余分にある。〈文句係〉という。定めは三つ。
一 文句係は、思ったことを何でも言ってよい。何を言っても、罪に問われない。
二 文句係は、何の権限も持たない。
三 王は、文句には答えない。
要するに、言うだけの役である。二十年、空席だった。
厨房の下働きリタが任命されたのは、王の膳を下げる道で口を滑らせたからだ。
「このお膳、毒味の順番が逆ですよ」
権限も役料もない。だからリタは翌朝も皿を洗っている。あるのは口だけだ。
「侯爵さま。去年の橋、まだ架かってませんよ」
「――そんなことはない」
そう言ってしまったら、もう終わりである。
倒すのはリタの言葉ではない。倒れた人が自分で言った、その一言のほうだ。
御前で、少年の王が今日も訊く。
「文句は?」
「あります」
偉い人がひとりずつ倒れ、王宮の空気が吸いやすくなっていく。
リタを見つけた若い宰相は、そのたびに褒美を訊いてくる。
「厨房の竈を、直してください」
「……それは、書類が要るな」