あらすじ
素肌で触れれば、相手の魔力を奪ってしまう。
その力を処刑のために利用され、「管理対象」として地下施設に囚われていたレティシアは、施設が崩壊した夜、生まれて初めて命令に背き、吹雪の森へ逃げ出した。
雪の中で彼女を救ったのは、森でひとり暮らす大魔道士ノアだった。
彼は、生み出され続ける膨大な魔力によって、絶えない熱と痛みに苦しんでいた。
偶然、二人の手が触れたとき。
レティシアは彼の魔力を吸収し、ノアを長年苦しめていた熱と痛みが、一時だけ消えた。
しかしノアは、もう一度触れてほしいとは言わなかった。
「触らないで」と言えば、手を下ろす。
怖いと言えば、待つ。
代わりに彼が差し出したのは、温かな食事と、鍵の掛からない部屋と、答えを急かさない時間だった。
そうして始まった、深い森の小さな家での二人暮らし。
温かな食事。
紅茶と蜂蜜。
本を読む午後。
いつもの場所に並ぶ、二つのカップ。
命令のない日々の中で、レティシアは少しずつ、「自分がどうしたいのか」を知っていく。
そしていつしか、触れることを恐れていたはずの彼女の中に、初めての願いが生まれる。
――「触れなくていい」と言ってくれたこの人に、自分から触れてみたい。
誰かを傷つけるために使われていた手で、大切な人へ触れたいと願い始めたレティシア。
しかし、地下へ置いてきたはずの過去もまた、少しずつ彼女のいる森へ近づいていた。
触れることも、離れることも、そばにいることも。
誰かに決められるのではなく、自分で選べるようになるまで。
二人がそれぞれの孤独を抱えたまま、同じ場所で生きることを選んでいく物語。