あらすじ
魔王は倒された。世界は救われた。
その翌日、各国は冒険者ギルドとの戦時契約を終了した。三万二千四百人分の仕事が、一夜で消えた。
勇者パーティの補給係だったアルドは、討伐報奨の名簿から名前を外された。理由は「非戦闘員だから」。二年半、隊の水と食料と靴下を管理してきた男の仕事は、記録上どこにもなかった。
代わりに押しつけられたのは、誰も欲しがらない廃魔王城の後始末。期限は九十日、支度金はゼロ。ただし辞令にはこう書かれていた。
――整理に必要な作業員の臨時雇用および城内宿泊は、整理官の裁量に委ねる。
宿舎を追い出された元冒険者たちを前に、アルドは帳面を開く。
「仕事ならある。魔王城を片づける仕事だ。飯と寝床は今日から出す。日当は帳面につけて、後で払う」
斥候は測量へ、治癒術師は診療所へ、戦場で役に立たなかった弱い火魔法は湿った書庫を乾かす火へ。
戦えない男が数え、書き留め、名前をつけていく。誰かが書かない限り、その仕事はなかったことになるからだ。
これは、戦争に勝ったのに居場所を失った者たちが、倒した敵の城で新しい仕事と暮らしを作る話。
そして、三万人が消えた日に何が起きていたのかを、一冊の帳面が明らかにしていく話。