あらすじ
十七年戦争で家も身分も失い、隣国へ逃れた公爵令嬢アストリッド。
長い髪を切り、髭をつけ、十九歳の身を「宿屋の親父アスティ」と偽って、彼女は小さな宿屋を営んでいた。
そんなアスティの正体を見抜いたのは、宿の向かいに診療所を構える十七歳の町医者、カイ。
けれどカイは何も詮索しない。
客でもないのに毎日宿屋へやって来て、お茶とお菓子を楽しみながら、ただ「ちゃんと休め」と笑う。
戦火の中ですべてを失ったアストリッドにとって、その時間は、一日一度だけ心を温める小さな灯りになっていく。
けれど、捨てたはずの過去は、彼女をそう簡単には放してくれなくて――。
身分を隠して小さな宿屋を営む元公爵令嬢と、
客でもないのに今日も会いに来る年下町医者。
二人がもう一度、自分の人生を選ぶまでの物語。