あらすじ
「針仕事しか取り柄がない」と評されてきた伯爵令嬢ヴェロニカは、夜会より教会の奉仕日を好み、寄付された布を黙々と繕っていた。そんな彼女の裏側の縫い目を見て、乾燥後の縮みまで計算された仕事だと認めたのは、無口な染物師ジュリアンだけだった。
数週間後、暴風で避難用の天幕四張りが裂け、街道からは避難者が押し寄せる。濡れた布は縫えない。ヴェロニカは十二人の奉仕者を乾燥、裁断、補強、本縫いへ振り分け、ジュリアンと天幕を救おうとする。
けれど作業を終えた彼女の指は裂け、もう針を持てなかった。縫えない自分には価値がないと怯えるヴェロニカへ、ジュリアンが望んだのは工房の働き手ではなく――ただ一人の妻だった。手仕事で人を守ってきた令嬢が、何もできない日まで愛されることを知るお話。