あらすじ

大学の同窓会の二次会は、新宿のカラオケ店で開かれた。モニターに男女のデュエット曲が映し出された瞬間、私はイントロだけで何の曲か分かった。直人が大学時代から好きだった曲で、彼と一緒に歌いたくて、私も一か月以上かけて練習してきた曲だった。  黒川直人はすでに一本のマイクを手にしていた。テーブルに残っているもう一本へ手を伸ばした、そのときだった。ちょうど部屋のドアが開き、水野柚香が雨粒のついたビニール傘を畳みながら入ってきた。  直人の目が、目に見えて明るくなる。彼は私より先に残っていたマイクを取り、柚香へ差し出した。 「柚香、すごいタイミングだな。これ、大学の頃よく歌ってただろ。一緒に歌おうよ」  周囲から一斉に冷やかす声が上がった。同窓会のグループLINEに写真を上げる人もいれば、大学時代に二人が一時期付き合っていた頃の話を持ち出して笑う人もいる。私は二秒ほど止まっていた手をそっと引っ込め、目の前の白湯を一口飲んだ。  その夜、直人はほとんど柚香のそばにいた。十時を過ぎた頃から胃がしくしく痛み始め、時間が経つにつれて痛みは強くなっていった。一度トイレに逃げ込み、しばらく休んでから戻ったものの、直人は店で頼んだ有頭海老の塩焼きの殻を柚香のために剥いていて、私が戻ったことにさえ気づかなかった。  その瞬間、もう何も言いたくなくなった。  五年間、私は十分すぎるほど伝えてきた。

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カクヨム
カクヨム2026/08/21
  • 現在の作品5年付き合った彼氏が元カノを家に住まわせ、「寝室を譲って」と言ってきた