あらすじ
幼いころに祖母から聞かされたのは,毎年八月十五日の夜だけ,この土地に昔の熱が戻ってくるという話だった。
日が暮れる前に家々は戸を閉ざし,大人たちは決して外を見るなと言い聞かせる。
だが夜半を過ぎると,閉め切った家の中まで赤黒い明かりが差しこみ,町の外ではないどこか遠い昔の燃える街と,逃げ惑う無数の人影の気配が立ち上がる。
朝になれば焦げ跡ひとつ残らない。
それでも土地に染み込んだ熱だけは消えず,忘れられかけた記憶を年に一度よみがえらせる。
これは亡霊の怪談ではなく,戦争の痛みが土地そのものに刻まれた夜の記憶をめぐる物語である。