あらすじ
昭和の田舎。獣医療がまだ十分に普及していない時代、少年の家にはスクーターで駆けつけてくれる優しい女性の“先生”がいた。愛犬がレプトスピラ病で倒れ、彼女は毎日往診に訪れる。少年は必死に本を読み、病名を突き止めるが、十九歳の老犬は静かに息を引き取る。
やがて“先生”は姿を消し、街の獣医から「偽医者だ」と告げられる。しかし数年後、痩せ細った彼女は正式な獣医師免許証を手に少年の前に現れる。
「あなたが、先生みたいな獣医になりたいと言ったから」
その言葉を胸に、本物の獣医になったのだ。
再会から数日後、彼女は亡くなる。
今も語り手は、田舎道を走るスクーターの音を聞く気がする。
夢はまだ続いている。彼女の優しさとともに。